塙厚生病院での地域医療研修を終えて
白河厚生総合病院 2年次研修医 根岸 紘子
今回、初期研修医制度の地域医療研修にて1ヶ月塙厚生病院で研修させていただくことになりました。塙厚生病院は現在私が初期研修医として勤務している白河厚生総合病院と同様に福島県の県南に位置しています。これまで塙町から来た患者さんを診る機会もありましたが、正直地域の特色や地域住民の生活などは理解できていませんでした。今回は、この研修を通して、塙厚生病院が県南の基幹病院として行っている地域の医療機関・行政との連携や、どのように患者さんの診療にあたっているのか、また塙町がどのような地域なのかなどを学ぶことを目標としていました。
塙厚生病院にきて初日、まず感じたのは病院全体の雰囲気のよさです。佐川院長先生に院内の案内をしていただきましたが、すれ違う病院スタッフ皆が笑顔で挨拶を返してくれました。同じ厚生連ということで制服は同じであり、私自身病院の雰囲気に馴染みやすいということもありましたが、スタッフ同士がしっかり挨拶を交わすことでより病院の雰囲気をよくしているように感じました。また、今回の研修中で実にたくさんの病院スタッフの方にお世話になりました。スタッフの数が多く、もしかしたら勤務期間中一度も顔を合わせることのないスタッフがいるかもしれないような大学病院とは異なり、塙厚生病院では実にほとんどのスタッフの方と顔を合わせることになります。だからこそ自然とお互いに挨拶が生まれ、連携がしやすい環境がつくられ、患者さんの診療にあたる際にもよりよい診療体制、よりスムーズな診察の提供に繋がっていると感じました。
病棟業務では主に内科病棟の患者を先生方と一緒にみさせていただくことになりましたが、何よりも先生方の診ている疾患の多さに驚きました。消化器疾患はもちろんのこと慢性心不全、水頭症、肺癌、呼吸器感染症、深部静脈血栓症、ネフローゼ症候群、脳梗塞など実に多分野にわたっています。塙厚生病院では大学病院や白河厚生のように専門科のみを診る診療ではなく、幅広い分野の診療を手掛けているということを再認識しました。医師だけでなく、看護師さんもすべての患者さんに対応し、各患者さんそれぞれに必要なケアを提供していることに感服しました。
休日、佐川院長先生の日直を見学させていただく機会がありました。蒸し暑くなってきたこの時期ですので熱中症の患者さんが多かったように思います。同じ熱中症とはいえ患者さん一人一人の背景は異なっていました。言葉にすると当然のことなのですが、介護を受けていて家の中でほとんど動かず熱中症症状がでた方や、畑で仕事を頑張って脱水気味になった方、藁作業をして発疹ができた方など。そのような患者さんを診ていて、佐川先生の“患者さんがどのような環境で生活しているかは地域を視ないとわからないし、そこから診療に結び付けることができない。”というお話に甚く感銘をうけました。今まで、矢祭町から1時間かけてきたという患者さんを診察してもそんなに時間をかけてこられて大変だったでしょう。と共感はするもののやはりどこかぼんやりとした印象を受けていたのは矢祭町という地域を知らなかったからであることに気づきました。心不全の増悪を繰り返してしまう患者さんを診た時に患者さんがどのような生活をしていて、その生活のどこを改善すればよいのか。心臓に負担にならないような畑仕事とは具体的にはどのぐらいの運動量なのか。仕事をしていて食事時間が不規則である糖尿病患者さんにどう対処するべきかなど、患者さん個人の生活背景をもっと理解した上で診療にあたることが大事であると感じさせられました。
外部見学研修では産業医として岡本工業・京セラ棚倉工場、特別養護老人ホームユーアイホーム(矢祭)、特別養護老人ホームさめがわ、介護老人保健施設久慈の郷の見学、訪問診療への同行をさせていただきました。実際に入居者の方々がどのように生活されているのか、どのような表情でいらっしゃるのか。どの施設においてもスタッフの方々が笑顔で仕事をしておられ、また施設自体も陽当たりがよく開放的な環境であるように感じました。特に特別養護老人ホームさめがわは廃校になった小学校を利用しているということで、学校であった面影が随所に残っていました。私も見学させていただいて、母校ではありませんがやはり小学校という共通の雰囲気でどこか懐かしさを覚えました。実際にこの旧西山小学校を卒業した方も入所されているとのことで、古き時代を懐かしみながらゆったりとした時間を過ごせるのではないかと感じました。どの施設でも入居待ちの方が数多くいらっしゃるのが現状であり、ただ基礎疾患の治療をするだけでなく、ADLの拡大をめざし、退院先の検討や入所の条件などを考えた上での医療を提供する必要があるということを再認識しました。また、産業医としての工場見学では佐川院長先生、菅野先生の産業医としての作業所巡視に同行させていただきました。京セラでは職員の方の健康相談や面接指導申し出なども見学させていただき、仕事量が手術後の身体に対して適正であるかどうかや現在の仕事に適正があるかどうかなどの相談まで幅広い健康相談を受けていることがわかりました。
院内研修では上部内視鏡検査や腹部超音波検査、心臓超音波検査などの臨床検査の研修や胃瘻の交換・増設、ERCP、胃摘出術、帝王切開術、膝関節鏡下手術など様々な治療や中心静脈穿刺術や胸水穿刺術、腰椎穿刺術など実に多くの処置を見学・経験させていただきました。特に上部内視鏡検査や超音波検査では検査の実施に時間がかかってしまうこともあり、多くの患者さんの協力のもと経験を積むことができました。指導してくださった先生方、検査科の方々に厚く御礼を申し上げます。
外来診療では患者さんの他院転送にも立ち会う機会がありました。転送先の医療機関との連絡や紹介状の作成、必要な検査成績・画像フィルムの添付など。患者さんを転送する一通りの流れを経験することができました。白河厚生で他院からの転送を待つ機会はありましたが、いざ転送する立場からみるとその準備に思っていたよりも時間がかかるのだということを実感しました。
1カ月という短い期間でしたが、出会った病院スタッフの方々が皆快く受け入れてくださり、本当に充実した研修を送ることができました。佐川院長先生を初めとした諸先生方、病棟外来スタッフの皆様、検査科の方々等、塙厚生病院のスタッフ皆様に重ねて御礼申し上げます。今回、塙厚生病院での地域医療研修を通じて学んだことを基に患者さんへよりよい医療を提供できるよう心掛けていきたいと思います。今後も福島県の医療に従事したいと考えておりますので、またお世話になる機会が来るかもしれません。来る日にはより成長した自分であるよう日々精進していきたいと考えております。これからもご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。